――墨流堂とあわせて、『オチビサン』の展覧会が大阪や東京でおこなわれ、そうして「まめつぶ屋」が出来ましたね。
安野 グッズを作る会社の方が『オチビサン』が凄く好きで、「やりたい!」と言ってくれたんです。最初に作ったのは、私がデザインしたポチ袋でした。手ぬぐいなどが最初の商品ですが、向こうにもデザイナーさんがいるので、あとはもうお任せして。『オチビサン』を好きな人が集まってくれて、とても可愛がってくれています。みんなで「ああしよう、こうしよう」と作ってくれている。
――まめつぶ屋もいろんなところに出展したり、展示もずっと巡回していますよね。滅多にないことだと思います。
安野 まめつぶ屋さんとコルクがやってくれていることなんです。私は、ほぼ漫画の『オチビサン』を描いているだけだから。でも、そういうのを全部私の活動として、皆さんが見てくれているんですよね。でも自分一人じゃとてもできない。だから、若い子たちが「自分でやろう!」と思って、小規模な範囲でグッズを作って、自分の世界観を漫画だけじゃなくて、例えば「お茶碗はこんなのを使っています」という風に、その世界に浸ってもらえる装置を作っていくのはすごく良い考えだと思います。それを具体的にやっていくのはすごく創造的なことだと思う。
――『オチビサン』も最初はポショワールで、大変な労力をかけて描き始めましたけれど、一旦できたら、いろんなところに広がって、しかもどの形になっても感動がある。アニメーションを見ても、ストップモーションアニメならではのオリジナル表現がすごくありました。周りの人がいろいろ広げてくれるのは凄いことだと思います。
安野 やっぱり、それにどれだけエネルギーを使うかだと思うんです。昔の漫画で今も読まれているものは、そこに作者のエネルギーがすごく注がれているから、作品として力があって、ずっと愛されていると思うんです。私もそういう作品を作れたら良いな、と思って描いています。
――あと、安野さんはInstagramにスケッチを載せているでしょう。あそこでもまた違うタッチの絵が見られます。いろんな人物が描かれていて楽しい。
安野 最近サボっているから、また描かないと! 何か、あれはみんな喜んでくれている。
――あちらは展示のように直接見るものではなくてインターネットだけれど、とても「親密さ」を感じるページです。
安野 「下描きなしで一発で描く」ということを自分に課しているので、全部下描きをしていないんです。トレーニングですね。だから「筋トレ」を見て頂くような感じかな。
――安野さんは、昔はいろんな漫画雑誌に何本も連載を持つという活動の広がり方でした。でも今はストーリー漫画の連載が『鼻下長』、カラーの漫画で『オチビサン』、「まめつぶ屋」では雑貨も楽しめるし展示もある。インターネットを見ればInstagramやメルマガ、ツイッターで活動報告を聞ける。漫画だけじゃなくて、いろんな形で安野さんの世界に触れられるようになりました。こういう広がり方のほうが素敵だと感じます。
安野 この方が向いているかもしれない。今の体力を考えても、漫画をいっぱい描くのは難しいですから。連載の漫画一本と『オチビサン』みたいに短い作品を描いていけたら良いかな、と思っています。
――週刊で描かれていた時と今とでは、生活もずいぶん変わったと思います。
安野 思いのほか作業が長くかかっちゃった時に、以前は毎回すごくテンパっていたんですけど、今は「まぁ、今日は午前中は良いか」という風に、ちょっと余裕が出てきました。友だちと遊んだりすると、「これが普通なんだな」「これがまともな生活なんだな」と思う。自由な時間があり過ぎて、最初は戸惑ったくらい。「暇なのかい?」と思ったんだけど、これが普通だった。
――なるほど。あと感じるのは、今は「プライベートな感じのものが見たい」という感覚もあると思います。漫画をはじめ、ライトノベルやソーシャルゲームも、すごく巨大な産業になってしまった。それはエンターテインメントとして派手なことも出来るから良いのですが、一方では展覧会やスケッチを見るような、小規模だから味わえる感覚も楽しいものです。
安野 ネットでは『監督不行届』のミニ版(『ミニカントク不行届』)もアップしたりしています。最近あんまりおもしろいネタがないんだけど。この間、暑い日にズボンを履かないまま外に行こうとしていて、「履きなよ!」みたいな(笑)。「ウケようとして、わざとやったんだ」と言う人もいるけど、そんなわけもないんだよね。
――『ミニカントク不行届』も凄いネタがありますよね。そういった日記的なものも含め、いろんな側面を見られるのが楽しいです。では最後に、安野さんにとって久々のストーリー漫画である『鼻下長』がどんな作品なのかを聞かせて頂けますか?
安野 忙しくいろんなものを描いていた時に、「こんなものを描きたいと思っていたな」と感じます。理想にはまだ遠いけど、イメージとしては自分がやりたかったラインに近いと思う。これがみんなに受け入れられて、すごく売れるということはないと思うんだけど(笑)。でも描いていて楽しいですね。
――人の生き方をはじめ、衣装やインテリアについても、今の都市の原点みたいなところがあって発見があります。第一巻の発売も十月ということで楽しみです。本日はありがとうございました。